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あの木をめざせ [コペンハーゲン]

2011年2月12日

前日までの曇り空が嘘のように抜けるような青空。自宅前の教会も色鮮やかに見える。数日前からの天気予報がこの土曜日は晴天無風と言い続けていたから、どうしても行きたい場所があった。それはコペンハーゲンのあるシェラン島北部にある森、Jægerspris Nordskov。その中でもピンポイントの目標はKongeegen(the King Oak)という樹齢1500-2000年の木。欧州でも最も古い木の一つで、wikipediaのList of oldest treesでも世界で最も古い木リストの32番目に入っている。日本でいうところの屋久島の縄文杉のようなものか(先のリストで17番目)。「ちょっと屋久島に行って来る」なんて急にいうことはできないが、そこはデンマーク。「ちょっと行って来る」所にこの木もある。思っていたほど簡単な道のりではなかったのだが。。。

Marble church.jpg

なぜこの木をめざすことにしたか。その理由はこのRoyal Copenhagenのイヤープレートにある。1967年は自分の生まれ年。写真のイヤープレートは以前誕生日に妻からプレゼントされたものだ。最近のイヤープレートと比べるとずいぶんと落ち着いたデザインというか、重みがあるというか。悪く言えば暗い。ただそれはこの木が何ものなのか知らなかった場合の感想。先日蚤の市で妻の生まれ年のイヤープレートを見つけて少し盛り上がった時に、この木がデンマークで一番古い木であり、欧州でも最も古い木の一つであることを知った。そんなに有名な木なのであれば日本に帰る前に一度は見ておかないと!ということで、この晴天の日にいざ見に行くことに。

Year plate 1967.jpg

その森Jægerspris Nordskovはコペンハーゲン市内から車で約1時間の距離。地図にもある通りここはいわゆるフィヨルドなのだが、日本人一般が想像するようなノルウェーあたりのフィヨルドと異なり、山の無いデンマークのフィヨルドの風景は平野に浮かぶ湖に近い。そのフィヨルドの入り口近くにめざす森がある。

Road to King Oak.jpg

森の近くまでは予定通りに到着したのだが、そこで困った。カーナビや地図の上では森の中には道が無いことになっているのだが、見るからに道はある。車が入れそうな道だ。ただし入り口には標識があって、普通に解釈すれば車は入ってはいけない標識だ。では車を置いて歩いていくかといっても、ナビ上で徒歩1時間とある。森は広大な森で、富士の樹海というほどではないが、どんな森かもわからないのでハイリスクだ。そしてこの日の気温は晴天とはいえほぼ零度。ちょっとでも迷って日が暮れたら大変なことになる。一度は歩き始めたのだが、本能が「やめろ」というので引き返すことにした。

もう一回入り口の標識を見てみると、車バイク進入禁止の標識の下に文字が書いてある。デンマーク語がずいぶん読めるようになった妻に訳してもらうと、「バイクの走行禁止」と書いてあるそうだ。ということは車は入ってもいいということか?悩んでいると、どうみても一般人が乗った乗用車が何のためらいもなく門をすり抜けていった。「なんだ入ってもいいんじゃないか」と強引に解釈し、車を発進させ、森の中へと進入。

いざ森の中に入ってみると、車が一台通れる幅の道が通じていて、通りにはすべて名前が付いている。ということはやはり入ってもいい道だったということか。住所が存在しないので緯度経度で入力したナビが示す方角だけを頼りに進んでいくと、前の方に車と人が。よく見ると作業服姿が数人がかりで丸太の門を開けているではないか。ということは、そこは許可無き者進入禁止ということ。脇道に落ちないようにUターンして来た道を帰ることに。

途中分かれ道を発見すると、東側の海沿いに出る道を発見。その道で木に向かって走ると、いくつか家が建っていた。ということは、あの乗用車はこのエリアの住民?そしてもしかしてこの道は私道?そんな不安を抱えながらとにかく進んだ。時刻は15時近く。最近の日の入りは17時だから、とにかく16時までには目的地に着かなければならない。

いよいよ目的地まで3kmというところで道が険しくなってきた。タイヤの幅の轍はあるのだが、至る所に木の枝が散乱していて車の底から頻繁に異音がする。なるべく車を傷つけないように注意深くルートを探しながら進む。時速10-20kmのスピードがやっと。

そうしているうち前方に車を止めて歩こうとしている人を発見。エリアの住民なのか、パトロール隊なのか、はたまたthe King Oak見学ツアー?なのか。車が道を遮っているので、いったん止まり、窓を開けて一言。「この先に行ってもいいの?」 いったん答えに窮しながらその男の人は「う~ん。。。行ってもいいよ」。なぜ答えに窮していたのかは未だに不明だが、とにかく彼の車の横にあいた車一台分のスペースをギリギリ通って前へ。

枝が散乱する道が続き車のことが心配だが、ナビはもうすぐそこに目的の緯度経度地点があることを示している。そして森のまっただ中なのに少し明るくなったな、と思ったその時、その木は現れた。木々の向こうに人が作った柵があり、その中に老木が見える。思ったより小さいが、形といい、目的の木 the King Oakに間違えない。

Kings oak 3.jpg

車を道の端に置き、2人以外だれも居ない森の空間を足下に気をつけながら木に近づいていく。落ち葉が何重にも重なったフカフカした地面だ。恐くもあり気持ちよくもある木への道。そして対面。the King Oakは静かに我々を迎い入れてくれた。本当に静かに。

もう枯れ死んでしまいそうになっていると聞いていた。でもそこにはまだ生命が感じられた。ただとても静かな生命。そして全てを受け入れるような生命。

Kings oak 1.jpg

木の周りを一周すると、正面と思われる角度があった。プレートの写真を並べてみるとよくわかる。自分の生まれ年のイヤープレートに描かれた木だ。枝の出方や角度もそっくり。ただプレートの木よりもずいぶんと細身になってしまっているのは、やはり枯れ始めているからだろうか。離れた所に車をとめたとはいえ、排気ガスを出して車でここまで来てしまってよかったのだろうか、と少し自己嫌悪感に襲われた。

Kings oak 2.jpgYear plate 1967.jpg

こうして無事に目的を終えると、来た道を帰らずに、来たままの方向へ車を進めた。そうすると2-3km走っただけて一般道に出ることができた。行きの1/3位の距離だ。地図で確認すると、行きの道の選択は一番遠いアクセス方法だったようだ。ナビや地図に道が書いていないので、結果論でしかわからないのだから仕方ない。次に来ることがあるのかどうかはわからないが、その一般道に出る地点をナビに記憶させておいた。

帰りはコペンハーゲンへ直接向かわずにRoskildeに寄った。600年前までデンマークの首都だった街であり、4年前にデンマークに赴任したときに1ヶ月ちょっと住んだ街だ。この街には新しい顔とデンマーク最古の街という古い顔があり、世界遺産のRoskilde大聖堂があり、そしてフィヨルドとヨットハーバーがある。もし自分が船好きならば、こんな街に住んでみたいと思うのだろう。

以前ホテル暮らしをしているときに通ったホテル横のレストランで、よく食べていたシチューをお腹いっぱいに食べて帰途についた。

たった半日の小旅行だったが、密度の濃い時間だった。


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