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正しい情報 [考えごと]

2011年4月2日

3月11日の東北地方太平洋沖地震から3週間が経ちました。未だに不明者の数が1万人を超えたまま。福島原発問題はいつ収束するのか時間軸が見えません。被災地範囲は広く避難されている方々の数も大きく、復旧の目指す形はまだまだ定かではありません。直接被災と計画停電による経済活動への影響は日増しに大きくなり、世界規模での経済ダメージが広がりつつあります。政治が機能することにももちろん期待したいですし、他者からの支援にも期待したいですが、日本と世界で大小のダメージを受けている一人一人がこの状況を克服しようとする一つ一つの強い意志が前へ進む原動力です。がんばりましょう。

地震直後から日本のテレビをできるだけ観るようにして、日本の皆様とできるだけ同じ情報を得るようにするとともに、webでは日本発信情報と海外発信情報ををチェックしています。その中で気になるのは、福島原発に関連する情報。今さらではありますが、正しい情報と真実は異なるのだ、ということを痛感しました。正しい情報は何種類もありますが、真実は一つしかありません。

福島第一原発の事故は、多くのことを改めて考えさせるきっかけになっています。原子力発電の是非、日本という狭く天災の多い国の電力確保戦略、放射性物質あるいは放射線への理解、政府の情報発信、マスコミの情報品質、日本というムラ社会の良さと悪さ、企業利益体質と公共性の不整合、日本政治の無力、災害復興政策のあり方、企業のリスク管理戦略、など。全てについて一つづつブログに記事をかければと思っていますが、今最も気になるのは、放射性物質による被害に関する政府とマスコミの情報発信に関して。

福島原発事故に関する政府見解やマスコミ報道を見聞きしていると、パニックを過度に意識した抑制的情報、将来の賠償責任に備えるかのような情報、政府と企業にのみ都合の良い情報、完全に間違っている情報が流れています。逆に放射線に過度に敏感な情報、過度に悲観的な情報も巷に溢れています。あらゆる異なる情報が世の中に流れてます。当然政府は一つの情報を固持するし、マスコミは途中あちこちへ揺れながらもその「一つの情報」へ向かって収束していく性向にあります。

その「一つの情報」は一般的に正しい情報になろうとしますが、それは地球上の全員にとって正しい情報ではないし、そしてしばしば真実ではありません。正しい情報というのは立場によって変わります。一方科学的真実は絶対に一つですが、人間の無知のためにその時の科学者が言う真実が100年後にも真実かどうかは100年後までわかりません。ちなみに科学者なのにその時の科学的真実を隠して政治的に正しい情報を発信している人は、もはや科学者ではありません。

放射線の影響に関する現在の政府の情報は、今の政権にとって政治的に正しいのであって、ある人達にとっては正しくありません。政府情報が唯一の情報源である人、鵜呑みにしたい人、賛同する人にとっては政府発表が正しいということになります。また政府情報を正としないと経済的不利益を被る人がいます。しかし政府情報がおかしいと考えるに足る情報を持っている人、情報が不安定で信じたくないと思っている人、政府情報を非としないと経済的不利益を被る人には政府情報は間違っているのです。自分にとっての正しい情報が何かは、自分できめるしかありません。

(以下は放射線の人体への影響に関する自分の知識をまとめたものです)

放射性物質の影響を考えるときには、確定的影響と確率的影響、外部被曝と内部被曝を考える必要があります。政府情報とマスコミ情報はこれらを十分明確にしていません。

放射線がなぜ人体にとって問題かというと、放射線が人体細胞の水などを電離してイオンやラジカルを発生させ、それがDNA分子と反応して遺伝情報を傷つける可能性があるからです。DNAには修復能力がありますが修復できる限度を超えてしまうと死んでしまい、細胞補充が必要なのにそれが間に合わなくなると臓器機能などが下がって症状として現れます。DNA修復能力範囲内であれば放射線の影響がでる可能性が低くなるので、一度に浴びる放射線量があるレベル以下であれば安心ということになります。ただ人体への影響というのは測定が難しいので、放射線量レベルのガイドラインをつくろうとすると、余裕をもったレベルにしたり、国際機関で決めたり、という必要があります。化学物質摂取量レベルにしても同じことだと思います。以上の被曝後「ただちに」影響がでるものを「確定的影響」といいます。

一方で放射線被曝後「ただちには」影響がでない症状に癌や白血病があります。被曝量が比較的多い場合には被曝量と発癌性の相関がデータとしてありますが、被曝量が少ない場合には相関がわかっていません。これは被曝から発癌までの時間が何年、年十年と長いこと、発癌の理由が放射線被曝以外にも存在すること、などが原因です。しかし過去のデータから、放射線被曝量が少なくても蓄積して多く浴びるほど発癌確率が高そうだと考えられており、「確率的影響」と呼ばれています。ただししきい値が存在するか、しないか、など様々な説が存在しているようです。

枝野官房長官がしきりに「この観測された放射線量はただちに健康に影響があるレベルではありません」と表現していますが、これは非常に正しい表現になります。一方で政府としては確率的影響に関しては明確な科学的評価ができないので責任範囲外です、と宣言していると解釈することもできます。政府の立場としては「正しい」表現でしょう。

もう一つ政府として「正しく」表現しているのは、「観測されている1時間あたりの放射線量」について言及していることです。

放射線は放射線物質あるいは放射性同位体が不安定な状態から安定な状態に自己崩壊するときに放射されるエネルギーです。このエネルギーがDNAを傷つける可能性があることは前述のとおり。テレビで放射線、放射能、放射性物質などの言葉が同じ言葉として飛び交っていますが、放射性物質に放射線を出す力(放射能)がある、というのが正確です。これが重要で、今福島原発から出て広範囲に拡散しているのは放射性物質で、放射線が広範囲に拡散しているのではありません。10年少し前に東海村で起こったJCO臨界事故では放射性物質は拡散せず、事故現場から強い放射線が出てしまった事故です。福島原発からは放射性物質が出てしまっており、これが空気中拡散、海中拡散、地中滞留してしまい、そこから放射線がでるので地理的に広範囲な影響となってしまっています。

観測、測定している放射線量(単位ベクレルあるいはシーベルト。詳細省略)は、放射線が測定場所でどのくらい存在(?)しているかを示しています。政府情報やマスコミ情報はたとえば、「A村で10マイクロシーベルト/時が観測されましたが、これは自然界放射線量やレントゲンの放射線量よりも非常に低いので全く問題ありません」という発信をしています。この情報発信には2つの問題があります。

1つ目はマスコミも最近は言及するようになった積算量です。1時間あたりの放射線量測定値と、1年分で示されることの多い自然界放射線量と、数秒を1年に1-2回浴びるレントゲンの放射線量を比較するのは、国民の混乱を抑えたい政府にとっては「正しい」情報発信ですが、科学的には「不正確な」情報で、真実は測定値のみです。その放射線量が確定的影響に結びつくような大きいものでなければ、積算した放射線量がどの程度かを考える必要があります。もし1時間あたりの放射線量が10マイクロシーベルトでそれが1年間継続したならば、10x24x365=87600マイクロシーベルト=87.6ミリシーベルトとなります。1年間分の自然放射線の世界平均が2.4ミリシーベルト、照射線業務従事者が1年に被爆できる管理限界が50ミリシーベルト、今福島原発で作業にあたって頂いている方々の管理放射線量が100ミリシーベルト(今回250ミリまで引き上げられました)ですから、もし毎時10マイクロシーベルトの状態が1年続くのであれば、そのA村にいる人へ確率的影響が出る可能性はかなり高くなることになります。正確な情報を発信しようとするならば、最新の放射線量のみを伝えるのではなく、3/11から定地点測定した放射線量をグラフにして、積算量が今まででいくつになっているのかを発信する必要があります。

福島原発の各炉の圧力や温度の状況は、勇敢な人達の努力によってかなり安定に向かっているようで、出ている放射性物質の量は日々下がっているようです。このまま減っていけば、政府のいう20kmの範囲外であれば、積算量は自然放射線量プラス少し、という結末になるかもしれません。

2つ目は内部被曝の問題です。上に書いてあることは基本的に外部被曝、すなわち人間の体の外に存在する放射性物質から出ている放射線をどれだけ浴びるか、という前提です。ところが福島原発からは放射性物質が飛んできていますので、この放射性物質は口、鼻、傷口などから人体に入ります。一度人体に入ってしまうとなかなか排出されませんので、仮に福島原発の状況が好転していき、放射性物質の飛散量が減ったとしても体に入り込んだ放射性物質から長期間被爆することになります。また放射線の強さは放射源からの距離の2乗に反比例しますが、人体に入ってしまうとその距離がほぼゼロになりますから、放射性物質からの放射線の影響をダイレクトに受けることになります。

この内部被曝の情報がなぜが政府情報やマスコミ情報ではあまり聞こえてきません。いくつかのテレビ番組で勇気ある医者や科学者がそれに言及した場面は見ましたが、総じては内部被曝に関しては情報を抑制しているように思います。

放射性物質がどのくらい、どこまで届くのかは、気象条件によってかなり偏りがあるようで、政府の言うような同心円状ではありません。海外ではシミュレーションデータも発表になっているようですが、日本では混乱を避けるためか広くは発表されていないようです。放射性物質の出てくる量は減っていますから、今となってはすでに拡散のピークは過ぎているかもしれません。原子炉の状態が悪化しないことを祈るばかりです。

半減期という言葉がマスコミ報道でも聞かれるようになりました。これは不安定な放射性物質が自己崩壊して安定な物質になる数が確率的に半分になる期間です。安定な物質になれば放射線は出ませんので、健康への被害も半減すると考えていいでしょう。例えば、東京にも飛んできたヨウ素131の半減期は約8日です。8日毎に50%になるので、16日で25%、24日で12.5%、72日で0.195%、104日で0.012%。。。になります。もし福島原発から放射性物質出るのが一回きりであれば、ある地点に届いたヨウ素131は3ヶ月経てばほぼ無くなると考えていてもいいことになります。福島原発からヨウ素131が出続けて、半減するよりも速く蓄積するのであれば、ある地点の放射性物質は増えていくことになります。また同様に東京で観測されたセシウム137の半減期は30年で、300年かかって0.1%になります。ヨウ素131もセシウム137も東京や千葉で水道水から観測されたようですが、水は放射性物質ごと運んでくれるので、しっかり管理されてパージされれば(海にでていけば)問題はなくなると思います。福島原発で高圧気体をベントしたり水素爆発したときのような放射性物質を空気中へ大量に発散するようなことが今後なければ、空気→雨→川・地下水→水道という経路を通って水道水から放射性物質が観測されるようなことは無いでしょう。福島原発から出る放射性物質の量ができるだけコントロールされることを祈ります。

ずいぶんと長い文章になってしまいました。できるだけ、何ミリシーベルトなら問題があるのかないのか、という表現を避けるようにしました。なぜなら、政府が避難指示を出した範囲外の放射線量なのであれば確定的影響ではなく確率的影響が対象になるので、何ミリシーベルトなら問題ないか、ということは、おそらく誰もわからないからです。

誰もわからないことは、自分で判断するしかありません。政府の言う事を信じてもいいし、リスクを少なくするために出来るだけ遠くに逃げてもいい。何が正しいか、は自分できめるしかないのです。


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志摩

こんにちは。初めて拝見させて頂いたのですが大変参考になりました!当方は今福島原発から120km程離れた所に住まう大学生です。今回の出来事があまりにも現実離れしているため、未だ悪夢を見てるようです…私は結構前から海外サイトで情報収集して「国内メディアだけでは危ないな。第三者の方がこういった時に冷静に見てるから 信用できる面もある」と思っておりました。私以外の家族はネットをしないので、情報源は専らテレビや週刊誌、新聞などです。聞くところによると東京電力がスポンサーのためマスコミは強く出れない癒着体制があるのだとか…正直信用なりません。原発で作業してる方々には頭が下がりますが、上の幹部達がどうもきな臭いです。恐くて、出来ることなら逃げたい!遠く海外に行きたいです。移民で受け入れてくれないかな?なんて、検索してばかりいます。恥ずかしいながら、語学はからきし苦手です。私は現実と非現実の狭間を漂ってるような気分です。既にご存知かと思いますが、レベル7入りしました今回の事故。しかし周りは普通に働いたり学校行ったりマスクもせず街を闊歩したり…かたや現在進行形で原発からは放射線物質が漏れ出ています。…これおかしくないでしょうか?早く家を捨ててでも政府の対応は待たずに逃げようと家族に言えばヒステリー扱いを受けます。私だけ逃げるなんて、家族を置いてくわけにはいかないし、お金がたくさんある訳でもない。苦しくて悲しくて、でも被災者が一番つらいのだと思い、周りに喚くこともできません。長くなりましたが、温かい海外在住者の方々の励ましに癒しを求めてしまいました。ありがとうございました。
by 志摩 (2011-04-13 02:08) 

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